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EPISODE #08
SPRING / SUMMER 25
Minimal Cutting, Maximum Versatility
EPISODE #08 SPRING / SUMMER 25

日本の着物は1枚の布を直線的に裁断して縫い上げることを基本とした衣服で、それ故に着る人の体型を選ばず、着物を身体に巻き付けるように纏ったら帯を用いて留めることで身幅や着丈を調整することができます。韓国の韓服やインドのサリーなんかも、直線裁断で縫い上げられていたり、身体に布を纏わせるような着方に共通項があるかもしれません。誰の為でもあり、誰の為でもないデザインは、現代の衣服の作り方と根本的に異なりますね。

19世紀初頭に登場したジーンズの歴史においても、初期のそれは直線的なパターンで作られたものでした。誰が履いてもフィットする、ということではなく、あくまで労働者のためのユニフォームであったために生産の効率が理由だったのではと推測できます。あるいは、シャトル織機で織りあげられるデニムの生地幅は70cm前後と狭く、その生地を目一杯無駄なく使うためにはセルビッチまで余すことなく使うことが必須だったからとも考えられます。

AUTHUR MACLEAN

異なる土地で、異なる背景をもって作られた洋服に共通して見られる直線的な意匠は、洋服それ自体が完成されたシルエットやスタイルを持つものではありませんが、着る人それぞれによってその姿かたちを変えていく余白があるし、逆に着る人たちの個性を引き立たせることにもなる面白さを秘めています。僕たちなりの解釈をもって、そんな洋服の特徴を新しい服のデザインとして今シーズンご用意したのがトラッカージャケットのP.IGGYとH.IGGY、ペイズリーシリーズのGYAN、DASです。

P.IGGYとH.IGGYは左右それぞれ、前後の身頃と袖までが1枚の生地で作られ、肩を中心に前後にぱたん、と生地を折るように作られているとてもシンプルな構造になっています。折り目の中心となる肩の部分は普通の洋服においては生地を接ぐ部分なので縫い目がありますが、この洋服においては接ぎ目はなく、代わりに生地の伸びを防ぐために裏に当て布をしたステッチが存在します。そして、通常は首や肩傾斜に合わせて襟もカーブしているものですが、そういった細かいパーツまでもが直線で裁断されたパーツで構成されています。生地幅もめいっぱい使っているので、洋服の随所にセルビッチが使われることになっています。

AUTHUR MACLEAN

インドで製作した超大判のバンダナを使用したシリーズではトラッカージャケットのGYAN、スモックパーカーDASをご用意しました。デニムのシリーズ同様にこちらの2型も直線のパターンで構成されています。どちらも大きなバンダナを折り紙のように折って、立体にする上で必要最低限な箇所を裁断するミニマルなパターン構成です。DASはバンダナをバイアス使いしてフロントポケットは折り紙の角をパタン、と内側に折り込んだような仕様になっています。どちらのデザインも直線的な構成ではあるけれど、脇にギャザーを寄せて縫ったりして、立体的なシルエットが出るように工夫しています。

肩の部分に接ぎ目がない服は、着物のように、どんな着用者の体型にも馴染みやすく、着る人それぞれのシルエットバランスが完成します。洋服の形そのものが個性を持ちすぎていないからこそ、誰の為でもあり、誰の為でもない洋服になったのかなと。構造の面白さ、そして着た時の意外性を楽しんでもらえたらと思います。

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