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EPISODE #19
SPRING / SUMMER 26
Groove in the Cloth
EPISODE #19 SPRING / SUMMER 26
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整っていないこと。完全に一致しないこと。わずかな揺らぎがあること。それが、時に心地よさを生む。

数年前、チームで Billboard Live TOKYO に Mansur Brown のライブを観に行ったことがある。サウスロンドン発の若いギタリストで、彼の音楽は常にプレイリストの常連だ。彼の演奏には独特のグルーブがある。淀みなく滑らかに流れているのに、常に心地よい揺らぎがある。きれいに揃っているわけではないのに、その揺らぎが音楽を前へ進め、聴いている人の体を自然と揺らしていく。

このグルーブは、おそらくまだAIや機械には出せない感覚だと思う。リズムが完全に揃えば、それは確かに正確にはなる。けれど音楽としては、どこか違うものになる。洋服づくりにも、それに近い感覚がある。どれほど精巧なものづくりをしても、人の手が介在したクラフトにしか生まれない美しさがある。今シーズンのコレクションで紹介している久留米絣は、その好例だ。

H.ROLLO H.ROLLO
H.ROLLO

白と藍の糸が交差する久留米絣は、日本三大絣のひとつとして知られている。布の表面には、輪郭がわずかに滲んだ模様が浮かび上がる。よく見ると柄は完全には揃っていない。少しずつずれ、柔らかく揺れている。それは欠点ではない。むしろ、この布の魅力でもある。

久留米絣の技法が生まれたのは、19世紀初頭。井上伝という少女が、藍染の着物に現れた白い斑点に興味を持ったことが始まりとされている。布をほどき、糸を観察すると、染まっていない部分が模様になっている。そこから、糸を括って防染することで柄をつくる技法が考案された。多くの織物は、織りながら柄をつくる。対して絣は、糸を先に染め、そのあとで織る。完成した模様を想定しながら、糸の段階で設計を行う。この工程は「図案読み」と呼ばれ、職人は完成形を逆算しながら、経糸と緯糸のどこを染めるのかを決めていく。

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ANDY ANDY

どれほど熟練の職人が計算を重ねても、生地が織り上がったとき、柄が正確に現れることはない。わずかなズレが生まれ、輪郭は柔らかく滲む。その揺らぎこそが、この生地にグルーブを与えている。久留米絣の中でも、特に美意識の象徴とされてきたのが文人絣だ。太宰治をはじめ、多くの文人たちが着物として愛用したことで知られている。

今回のコレクションで用いた生地は、文人絣の構造をもとにした「N柄絣」。白と藍の糸を密に配置し、織りの過程で柄をわずかにずらしながら進めることで、布の中にNの輪郭が浮かび上がる。効率とは相反するプロセスの中で、計算しきれない不確定要素が多分に含まれる。この不完全さは、高い技術によって初めて心地よさへと昇華される。

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AIが発達し、さまざまなことが機械的に進む時代になった。多くのものが、以前よりも瞬時に、そして精巧に作られるようになった。けれど、その精密さが増すほど、人の手から生まれるグルーブは、むしろ特別なものになっていく。ただし、不完全な美しさは卓越した技術を持った人の手からしか生まれない。そこには長い時間と、日々の研鑽による技術が織り込まれている。

人の手が介在することで生まれる揺らぎ、グルーブ感のあるものづくりをブランドとして大事にしていきたい。

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