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EPISODE #16
AUTUMN / WINTER 25
Woven Time,
Embedded Memory
EPISODE #16
AUTUMN / WINTER 25

秋冬シーズンの納品もひと段落したところですが、オフィスでは次のシーズンの生産準備、その次のシーズンのコレクション制作が並行して進んでいます。半年に一度のペースで繰り返されるこの流れは、ブランドが続く限り止まることはありません。日々ワークスペースを侵食していく新たな生地スワッチや付属と格闘しているうちに、次第にコレクションの輪郭がぼんやりと浮かび上がってきます。秋冬は春夏に比べて素材の選択肢が多く、文字通り足の踏み場もない状態になることもしばしば。皆さんの手元に製品が届くまで、ここからが長い旅路の始まりです。

何気なく袖を通している洋服も、その一着をかたちづくる素材のひとつひとつが、どれだけの距離を移動し、どれだけの人の手を経てきたのか――ふと、そんなことを思います。繊維は紡績工場で糸になり、機屋の手で生地となり、縫製工場で服へと仕立てられる。移動手段とインフラが発達した現代だからこそ、日本にいながら世界中の素材を使うことができているのです。

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店頭では、先染めのマルベリーシルクをチェック柄で織り上げたネルシャツシリーズが並んでいます。マルベリーとは、シルクを生み出す蚕が好む桑のこと。桑の木は日本でも北海道から九州まで広く分布し、決して珍しい植物ではありませんが、その品種は多岐にわたります。養蚕に用いられる真桑、別名「唐桑」は、中国を原産とし、紀元前にインドや日本へと伝わったもの。文字通り「唐」から来た桑です。移動手段の乏しい時代に、シルクロードを通じてヨーロッパまで広まったその背景には、気の遠くなるような距離と時間の積み重ねがあります。気候の異なる地域をいくつも越え、言葉も文化も異なる人々との交流を繰り返しながら、それでもなお伝播していった。そうした歴史から、シルクという素材がいかに古くから人々を魅了してきたかが伺えます。

そう思いを馳せると、今目の前にある一枚のシャツも、ただの衣服ではなく、とてつもないロマンを秘めたものに感じられてきます。シルクに限らず、今私たちが使っている織物の一枚一枚には、人の移動と時間の記憶が静かに宿っている。目には見えなくとも、確かに旅の軌跡が刻まれているのです。企画のはじまりから製品が店頭に並ぶまでの長い道のりは、かつてのシルクロードのように遠く、複雑で、静かな時間の流れに包まれています。

服づくりとは、先人たちによって少しずつ積み重ねられてきた営みの上に成り立っています。そして、今この時代においても、多くの人の手と時間が丁寧に繋がれることで、ようやくひとつのかたちとなる。その一端でも想像していただけたなら、服とともに過ごす時間が少しだけ深まり、より大きな愛着へとつながっていくかもしれません。旅の記憶――そのかすかな気配に耳を澄ますように、お気に入りの服に袖を通してみてください。

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