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EPISODE #17
SPRING / SUMMER 26
GEORGIA, Worn with Memory
EPISODE #17 SPRING / SUMMER 26
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肩幅くらいの小さなデッキを左右に振りながら体重移動の妙によってグイグイと進んでいく。若き日の父が学生時代にのめり込んだのであろうスケートボードが幼き頃に出会った最初のストリートカルチャーと呼べるものでした。70年代に青春時代を過ごした父が見せてくれたハンドスタンドなどのトリックはZ-BOYS以前のスタイルで今のそれとは全くの別物だけど、それでも格好良く見えた。

暇を見つけてはガレージに置かれているスケートボードを拝借してコソ練に励んでいたのが懐かしい。父の雑多な趣味にまつわるいろんな道具が保管されていたガレージは子供にとってワクワクする秘密基地みたいな場所だった。そんな特別な場所の入り口あたりにスケートボードは決まってスニーカーとセットで置いてあった。経年劣化でカチカチになったソールはまるでグリップ力が無かったのか父が履いているのを見た記憶は無い。きっと学生時代に苦労して買った思い入れから捨てるに捨てられなかったのだと思う。記憶が曖昧だけど、白いデッキシューズはSperry Top-Siderのものだったはず。

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NICENESSでは昨年より春夏シーズンの提案としてレザーヨットシューズ、GEORGIAを展開しています。幼き日に見たデッキシューズのような意匠のこの靴はレザーシューズなのか、スニーカーなのかがとても曖昧です。スニーカーの語源を調べてみると、Sneak (忍び寄る) とAIが答えてきました。ソールにゴム素材を使用していることから歩行の際に音が出ない静かな靴ということなのでしょう。ところがGEORGIAはラバーソールは履いているものの、トゥスチールが付いているから歩く度に音がカチカチとなってしまいます。

スニーカーの定義を調べてみても、ゴム底を使った布製または革製の靴とある。ここでもこの靴はスニーカーに当てはまるものの、その製法は完全に革靴のそれです。バイヤーさんやお客さんから「このスニーカーは…」とお声がけいただく度に、これは果たして…、とぐるぐる思考が同じところを何周も回っている感覚に陥っています。もうこの際、分類は受け取り手の判断に委ねて、適宜対応するということにします。

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ANDY ANDY

名前からも察しがつくように、デザイナーが着想を得たのはアメリカン・モダニズムの象徴として知られる画家の「ジョージア・オキーフ」。多くの人が敬愛するスタイルアイコンである彼女の足元は決まってフラットシューズで、晩年の住処があったニューメキシコという土地柄もあってか薄汚れたものを履いている様子が資料に残っています。洗練という言葉が相応しい、シンプルな中にも遊び心のある着こなしの中でエイジングされたフラットシューズがやけに格好良く映る。そんな理想のエイジングを新品の状態で実現すべく、都内の職人さんに協力いただいて一点一点、手仕事によってヤレ感を表現しています。

GEORGIAはアッパーは言わずもかな、一見するとゴムに見える廻しテープやヒールパッチなど、アウトソールを除くすべてがレザーから出来ています。はみ出したシューグー、履きジワのついたアッパー、経年による酸化を起こしたようなテープ。一足ずつ微妙に異なる仕上がりは、まるで長い月日が経ったかのような自然さで、新品でありながら時間の経過を内包したような佇まいです。

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幼い頃にガレージで見たくすんだデッキシューズの記憶。ジョージア・オキーフの洗練されたスタイルと美学。頭の中にある色々な記憶が歩くたびにカチカチと音を立てる靴が思い出させてくれます。革靴ともスニーカーとも言い切れない、どっちつかずの立ち位置。どこにでも行けるけど、どこにも属さないような、曖昧で自由な靴。でもそれこそが、NICENESSが意識している何にも縛られない在り方に近いのかもしれないと思うのです。はっきりと定義できないものの中にこそ、確かな存在感がある。そんなことをこのGEORGIAが教えてくれるような気がしています。

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