
AUTUMN / WINTER 26

これでもかというほど降り続いていた秋雨がひと段落した朝。久しぶりの青空があまりに清々しくて、いつもより少し早く身支度を済ませ、近所の川沿いを走りに出た。雨上がりの空気は澄んでいて、頬に当たる風が心地よい。ふと足元に目を向けると、街路樹から落ちた葉が歩道を覆っていた。黄色、橙色、赤茶色。雨に濡れて深みを増した葉の上に、乾き始めた葉が重なり、ところどころに緑も残っている。毎年繰り返される見慣れた光景のはずなのに、立ち止まって眺めてみると、その色の豊かさに驚かされる。
紅葉という言葉からは、鮮やかな赤や黄色を思い浮かべる。けれど実際の景色は、それほど単純ではない。一枚の葉の中にも複数の色が混ざり合い、光の当たり方や水分の残り具合によって、その表情は刻々と変わっていく。絵の具を混ぜ合わせてつくった色とは違い、異なる色がそれぞれの輪郭を残したまま重なることで、ひとつの景色が生まれている。自然の中にある色は、思っている以上に複雑だ。



そんな色の重なりを眺めているうちに、今シーズン制作したオリジナルのビーチクロスを思い出した。コットンスラブの杢糸、5色に染め分けた太番手の絣糸、紡毛糸、梳毛糸。性質の異なる4種類の糸を高密度に編み込むことで、独特の奥行きを持たせた素材だ。日本の伝統的な染織技法である絣は、糸を部分的に染め分けることで、布に不規則な色彩や独特の揺らぎを生み出してきた。今回の生地にもその技術を取り入れ、遠目には落ち着いた単色に見えながら、近づくほどに複雑な色彩が浮かび上がる。まるで落ち葉の重なりのように、異なる色が混ざり合うことなく、ひとつの表情をつくり出している。


コレクションのキャンペーン撮影を行ったのは、スコットランド北西部に浮かぶIsle of Skye、スカイ島だった。切り立った岩山、緩やかな丘陵、湿原や草地。褐色の草、深い緑の苔、灰色の岩が入り混じる風景は、わずかな光の変化によって刻々と表情を変えていく。島の複雑な地形は、異なる時代の地層や火山活動、長い年月をかけた浸食によって形づくられてきたものだ。日本の秋の落ち葉と、遠く離れたスコットランドの大地。まったく異なる場所にありながら、そこには複数の色や形が重なり合うことで生まれる、共通した美しさがある。
スコットランドをはじめとする英国の各地では、厳しい風雨から身体を守るため、羊毛を紡ぎ、丈夫な布へと織り上げる技術が発展してきた。ツイードやシェットランドウールに代表される素材は、土地の気候や人々の暮らしと密接に結びついている。やがて英国で培われた繊維技術や服づくりの知識は、大西洋を越え、アメリカの衣服文化にも影響を与えていった。異なる土地の気候や生活様式に合わせて、素材も服の形も変化していく。服の歴史を辿ることは、文化が海を越えて交わってきた歴史を辿ることでもある。



このビーチクロスを用いたBATTとSYLVIANには、そうした衣服の歴史を現代の視点で捉え直す試みがある。BATTの着想源は、1920年代のアメリカのビーチジャケット。素朴な構造を出発点としながら、英国のハンティングウェアに見られる立体的なパターン設計を重ね合わせている。一方、SYLVIANは1940年代のダスターコートをベースに、英国のチェスターコートに由来する構築的な仕立てを取り入れた。どちらも特定の時代や地域の服を忠実に再現するのではなく、異なる背景から生まれた衣服の合理性や造形を組み合わせることで、新しいバランスを探っている。
その編集は、生地の内側にも及んでいる。表面には異なる糸が重なり合う複雑な陰影を、裏面には起毛加工によるフリースのような柔らかさを持たせた。外側の重厚な佇まいとは対照的に、身体に触れる側には温かさと心地よさがある。どちらのアイテムも要所にレザーを配し、柔らかな編地に強度を加えている。英国のツイードを思わせる色彩の奥行き、アメリカのワークウェアが持つ実用性、そして日本の絣が生み出す不規則な色の重なり。異なる文化や技術が、互いの特徴を残したままひとつの服の中で共存している。

今季NICENESSが掲げるテーマは、Aesthetic Dissonance。美的不協和音。異なる時代や文化、素材、技術を組み合わせ、その間に生まれる違和感さえも美しさとして捉え直す試みだ。不均一に染め分けられた絣糸。ウールとコットン。紡毛と梳毛。柔らかさと強さ。英国とアメリカ、そして日本。必ずしも同じ性質を持たないものが、互いの輪郭を残したままひとつになる。そこに生まれるのは、均一に整えられたものとは異なる美しさだ。遠く離れたスカイ島の大地にも、一本の糸の中にも、そしていつもの街角にも、そんな美しさが潜んでいる。



























