EPISODE #22AUTUMN / WINTER 26
Everything a Fiver!

Everything a fiver!  全部5ポンドだよ!
威勢のいい掛け声が、小道いっぱいに響いていた。

今から二十年ほど前。まだロンドンオリンピックの開催が決まったばかりの頃、街全体が大きく姿を変える少し前のことだった。イースト・ロンドンのコロンビアロードで日曜日の朝だけ開かれるフラワーマーケットには、色鮮やかな花束を抱えた人たちが行き交い、ストールホルダーたちが絶え間なく声を張り上げていた。その賑わいを静かに見つめ、シャッターを切り続けていたのが、写真家 KIYOTAKA HATANAKA氏だった。

彼は僕たちより少し早くからロンドンで暮らしていて、頼れる兄貴のような存在だった。初めて会った日に見せてもらったのは、そのフラワーマーケットで撮り続けた写真だったことを今でも覚えている。花そのものではなく、花を抱えて歩く人たちの表情や、その街の空気を写した作品だった。その写真には、彼が見つめていたロンドンの風景や、そこに生きる人たちのそれぞれの人生の一端がそのまま写っていた。

フラワーマーケットから一本路地へ入れば、壁はグラフィティで埋め尽くされ、ポスターは何層にも貼り重ねられていた。レンガ、植物、ストリートアート、古い看板。それぞれが自分の居場所を主張しながら、誰も互いを消そうとはしない。自然と人工物が同じ景色の中で呼吸している。その雑多さこそが、あの頃のロンドンの美しさだった。

オリンピックを境に街並みは随分と変わったが、週末になれば公園で芝生に寝転び、友人たちと一緒に日光浴を楽しむ。自然は特別な場所にあるものではなく、都市の生活の中に存在していた。イギリスという国は、産業革命によって世界で最も早く都市化を経験した国でありながら、同時に世界でも有数のガーデニング文化を育んだ国でもある。William MorrisやArts & Crafts運動、そしてLIBERTYのテキスタイルに至るまで、その歴史には一貫して「自然を生活の中へ迎え入れる」という思想が流れている。都市の中で暮らす人々が、生活の中に自然を持ち帰るためのデザインだ。

このシーズンのグラフィックを企画するにあたり、デザイナーが最初に口にしたのは、「花柄と幾何学模様が混ざった柄でスカーフを作りたい」という一言だった。その言葉を聞いた瞬間、思い浮かんだのも、やはりあの頃のロンドンだった。花だけではない。幾何学だけでもない。自然と都市が、どちらも譲らずに共存している風景。

この柄は一つの花を繰り返すような描き方をしていない。同じ種類の花でも、一輪ごとに少しずつ形を変え、花びらの数も、色も、茎の曲がり方も描き分けている。効率だけを考えれば、一つ描いて繰り返した方がずっと早いが、その小さな違いこそがキヨさんの写真に惹かれた理由だったように思う。二十年が過ぎ、ロンドンは大きく変わった。けれど、フラワーマーケットに響いていた掛け声や、花を抱えて歩く人々の笑顔、自然とグラフィックが重なり合っていた街の記憶は今も色褪せない。その景色は形を変えて一枚の布の中に息づいている。

KIYOTAKA HATANAKA

COLUMBIA ROAD FLOWER MARKET